胡蝶の夢二

日本書

令和7年2月7日

司馬遼太郎著

巨大な組織・江戸幕府が崩壊してゆくこの激動期に、
時代が求める〝蘭学〟という鋭いメスで身分社会を切り裂いていった男たち。

幕末海軍の教師団にポンペという軍医のいることを知った松本良順は、あらゆる圧力を断ち切って長崎に走る。やがて佐渡から語学の天才である弟子の伊之助を呼びよせた良順は、ポンペを師に迎え、まったく独力で医学伝習所を開講し、あわせて付属病院を建てる。ひろく庶民に門戸をひらいたこの病院は、身分で閉ざされた社会に、錐でもみ込むように西欧の平等思想を浸透させてゆく。

【著者の言葉】
伊之助は、江戸末期にいる。
そういう男を見たいと思う場合、分際という窓をこじあけてみねばならない。
さらに考えると、江戸期の分際という倫理は、人間の普遍的美徳である謙虚、謙遜、恭しさというものを生み、ついにはときに利他的行為までを生むほどの力を持った。同時に強烈な副作用として日本人に卑屈さを植えつけた。(略)
身分と分際の社会である江戸期で、それらを超越することができる道がわずかながらひらかれていた。
たとえば、武術と学問であった。(第四巻「伊之助の町で」)

【目次】
ポンぺ
小さな航海
夏の雲
江戸の風聞
秋の丘
万延元年
小島養生所
平戸
崎陽の雲

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