胡蝶の夢三

日本書

令和7年4月18日

 司馬遼太郎著巨大な組織・江戸幕府が崩壊してゆくこの激動期に、
時代が求める〝蘭学〟という鋭いメスで身分社会を切り裂いていった男たち。

ポンペの帰国とともに江戸の医学所の頭取となった松本良順は、緊張した時局の中で不眠に苦しんでいる一橋慶喜の主治医となり、阿片を用いてこれを治す。一方、語学の天才・伊之助は「七新薬」という蘭方の医書を刊行するまでになったが、その特異な性格が周囲に容れられず、再び佐渡に逼塞する。また、赤貧のなかでポンペ医学を修めた関寛斎は、請われて阿波蜂須賀家の侍医となる。

【著者の言葉】
題を『荘子』からとった。荘子――荘周――は夢に胡蝶に化(な)った。荘周自身、自分は人間だと思っていたが、実体が胡蝶であって胡蝶が夢を見て荘周になっているのか、荘周が夢を見て胡蝶になっているのか。『荘子』が問いかけた設問は、この作品を書きおえても私には答えられない。小さくは、答えることができる。たかが蘭方医学をひきうつしで学んだだけで、良順が、なまみの良順とはおよそちがったかたちで――たとえば荘周の夢の中の胡蝶然として――封建社会の終焉に栩栩然(ひらひら)と舞いとぶというのは化性(けしょう)にも似た小風景といわねばならない。(第四巻「伊之助の町で」)

【目次】
暗転
江戸へ
殿中
変転
関寛斎
良順
浮雲
江戸晩景
大坂

 

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