令和7年(2025)1月吉日 中川郡池田町清見ヶ丘10番地
清見ケ丘公園の端、今は営業していない清見温泉の敷地に標記の記念碑があった。ここには久島重義彰徳碑と同じように池田高校による説明板があった。
【池田農場開放記念碑】
表面には上記のとおり刻まれ、裏面には次のとおり刻まれていた。「元侯爵池田家明治二十九年五月此地ノ開墾ニ着手シ爾来農耕ノ諸戸累代相承ゲ挙郷相和シ刻苦業ニ服シテ終ニ功ヲ遂ゲ昭和十六年八月借地ノ分譲ヲ受ケテ自ラ其主トナル今其欣幸ヲ紀念スル為此碑ヲ建ツ子孫永ク父祖ノ辛労ヲ忘レズ益々奮励シテ有終ノ美ヲ飾ルベシ 昭和二十七年十月再建(不明)」
その下には発起人の氏名が刻まれていた。
石碑の近くにある説明板には次のとおり書かれていた。
【池田農場開放記念碑説明板】
1896年(明治二十九年)まだ池田町がシボサム村という名前だったころ、池田農場をのちに自らの手で開放することになる小作人らが鳥取県、福井県からアイヌモシリ「静かなる大地」のトシベツブトに入植してきた。小作人が開墾した土地は、地主と分け合えるという「開き分け」といわれる政策を信じてやって来た人々だった。小作人にとって「自分の土地を手に入れることができる」という夢のような政策だったが、現実には「開き分け」られなかったのである。ただ耕してはまた開墾、耕してはまた開墾する日々の連続。支払われる賃金もわずかで凶作の影響もあり、生活は困難としかいいようがなかった。夢を描いて、ここまでやってきた人々の気持ちは、現代の私たちには想像できない。しかし彼らには、必ず自作農になるという強い意志があった。いつか自分たちの手に農場が開放されるという望みをつなぎ続けてその環境に耐えた。
1916年(大正五年)地主制そのものに対する意識的な闘争として農地開放運動が始まった。大正デモクラシーの時代だった。池田農場における小作人組合の設立と、その総会における「農地開放請願運動展開の決議」はそうした時代背景の中で「土地を自分たちのものにする」という決意を公然化させた瞬間だった。
1940年(昭和十五年)三月、自作農創設手続きが始まった。同年六月、町議会で「池田農場自作農創設に関する件」が可決、同年七月には道庁に申告された。
1941年(昭和十六年)小作人らは自らの土地をとうとう手に入れることができた。入植から約半世紀が過ぎた第二次世界大戦の最中のことであった。運動のリーダーだった吉田磯吉はどんな思いだっただろう。その面積は約4.37km2東京ドームおよそ九十四個分にも及んだ。小作人らは土地の購入のため多額の借入金を背負うことになった。
苦しい返済を経て、終戦後のデノミネーション(貨幣の価値が下がること)が、それをわずかなものへと変えた。同年九月五日、開放の記念と小作人に寄り添い続けた農場管理人の久島重義の記憶を込めてこの記念碑は建てられた。
1952年(昭和二十七年)三月、十勝沖地震の際、碑は倒壊してしまったが、地元の強い意向で同年九月にすぐに再建されている。戦前、戦中の語り部が世を去る中、記憶をつないでいくため、私たちもここに看板を立てる。
2020年(令和二年)十一月三日 北海道池田高等学校有志一同
この説明板の裏面には、令和二年に池田高校の総合学科16期生が説明板設置の経過が記されている。概要は次のとおり。最初、石碑はわけのわからないものが建っているという印象だったのが、先生に聞くと池田町の原点といえる貴重な記念碑ということがわかり、調べ始めると多くの驚きがあり、碑の内容を説明する看板を立てることになった。調べ始めるとインターネットでの検索には限界があり、池田町教育委員会を通じ「池田農場史」の複製をもらい、それを読むと当時の情景や小作人の苦しみを感じることができた。しかし、もっと当時のリアルな小作人たちの思いを理解したいと考えるようになり、高校の近くに小作人の嶋木悦蔵のひ孫にあたる嶋木正一さんにインタビューした。1時間以上のインタビューは小作人の体温が伝わってくるようなじかんだった。インタビュー時の地元報道機関の取材を通じ地域の金融機関や地元の方から支援を受け、看板を設置することができたようである。
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